濱野裕生

  • 金木犀 – 濱野裕生

    いつになく冷えた朝 窓の外は深い秋雪のように舞い落ちる金木犀 白い季節はすぐ‥そこ静かな寝息立て 今朝は母がまだ眠ってる昨日、届いたばかりのハーモニカ 枕のそばに置いたまま窓を少し開けましょうか? 母の眠りを邪魔せぬようにそして香り放てよ金木犀 今朝は君が母を起こせ カーテン越しに朝日が射します 窓の外は深い秋庭の隅に積もった金木犀 白い季節はすぐ・そこ風が部屋を訪ねます 母に季節を届けますやがて…

  • 母のクーデター – 濱野裕生

    2003年、夏 母が突然、騒ぐ!こんなとこまで連れてきて あんたはひどい息子さ今すぐ私は帰るよ 母が身支度を始めるよろける足を踏ん張りながら 帰り支度をする理由なんて分からない だけど母にとっては大切な事今でも独りで暮せると言う それはそれで大事な事私のバッグはどこにある 黄色の財布はあるだろうね?バスはどこから出るのかい ここから佐世保は遠いかい?2003年、夏 母が突然、騒ぐ!今から佐世保に帰…

  • ひととき – 濱野裕生

    母はコタツの中で両手を擦る そして、痛む膝をさすり出す私は少し猫背で頬杖をつき 薄目をあけてTVを見ているやがて母はミカンに手を伸ばす そして、右の頬に当てている私は穏やかな時を感じながら いつか眠りに落ちていく漂う香りの中私は目覚める 母は‥座椅子を枕に眠ってる私の目の前には袋まで剥かれたミカン そして肩には毛布が掛けてある嗚呼、こんなにのどかで穏やかなのに こんな暮らしがずっと続けばいいのに‥…

  • ふるさとへ帰ろう – 濱野裕生

    ふるさとへ帰ろう 君が育った町へ君の母が待ってる 老いた身体を横たえて‥君の帰りを待ってる自分の命を削り 君を育てた母が君が忘れかけたふるさとで 老いた身体を横たえて・君の帰りを待ってるふるさとへ帰ろう 君が育った町へ老いゆく母は語らない 救いなど求めもしない・それが何故だか分かるかいふるさとへ帰ろう ふるさとへ帰ろう 老いた母の為にあの日、優しさを‥ふるさとに残し 君は都会に憧れて‥しまったそし…

  • 花ミズキ – 濱野裕生

    過ぎゆく季節の中で 母が老いを急ぐ移ろう季節が・まるで‥私まで弄んでる二年前、母の為にと植えた花ミズキ私の背丈と同じくらいネ‥って 母が言ってた朝な夕なに水をやり 大事に育てたがふと・気付けば・母の身体が 随分小さくなってる花ミズキ・君の背丈が伸びたからだけじゃない母の‥母の身体が少しずつ‥縮んでる教えてくれ花ミズキ・母の心が分からない近頃・母はめっきり 言葉数が減ってきたUh hoo hoo h…

  • 秋:夕暮れ – 濱野裕生

    ほら・どう思う・あの空を 母が古い映画のヒロインみたい夕焼けを前にして椅子に座ってさ 私の・そばで腕組みしてる母にはあの空・見えるだろうか 弱った視力が少し気に掛かる長い道のりを歩いた母は 時に・ああして昔を探してる生きる事に疲れた・とか 足でまといになりたくない・とかそんな思いは持って・欲しくない生きてきて良かった・とか それなりに幸せだよ・とかそう思って・欲しいほら・見てご覧・夕陽が動く オレ…

  • 風よ光よ‥ – 濱野裕生

    風よ君に・心あるなら 頼んでおきたい‥事があるもしも母が・ふさぎ込む日は 語り掛けてくれ‥母の耳元でそして、君は・届けてくれるか 私の思いをそっと‥母のもとへ 光よ君に・優しさがあれば 頼んでおきたい‥事がある母が遠い・記憶を探し 空を見あげて‥ため息つく時そんな時には・空一杯に 母のふるさと‥描いてくれないか母の悲しさなら 私が背負うつもり 辛さなら それも私にくれ苦しい事なら慣れている 母の痛…

  • 母の童歌 – 濱野裕生

    おじちゃん・あそこに連れてって 小さな祠のある所貴方は教えてくれたでしょ ここから昔に戻れる・とだったら・私は帰りたい 自分が誰だか聞きにいく おじちゃん・訊ねていいかしら 私のふる里どこかしら海の綺麗な・とこでした 緑の綺麗なとこでした私の母ちゃま・いるかしら 今日も畑で草むしりHU HU おじちゃん・教えておくれまっせ 深江は遠いとこですかイサム兄しゃま居るかしら 私を待っているかしら深江に私…

  • 春は・まだ – 濱野裕生

    春はまだ薄目を開け・そっぽを向いてる 風はまだ白いガウンを羽織ったまま今朝の母はベッドの中・丸くなったまま 春はまだかと春はまだかと催促してるそうだね・今はまだ枝垂れ梅の頃 昨日・デイへの途中で見掛けたじゃないか?今は如月の頃・あんたの生まれた月 桜はまだ・松葉ぼうきみたい・さ春はまだ薄目を開け・そっぽを向いてる 風はまだ白いガウンを羽織ったまま ためらいがちなスローペースの春はまだ風はまだストー…

  • 施設にて – 濱野裕生

    窓越しに見える夕焼け空 施設の外は車の波遅かったじゃないか 何してんだと 私を激しく叱る買物に行くよ これから直ぐにさ お前と一緒にさ何も分からない今が分からない 施設を自分の家と思ってるベッドを揺らし立とうとする そして私に倒れ込む施設の壁のチャイムが響く ここはどこ?‥母がつぶやくどうしたんだろう私は何故ここに居る 歩けないのは何故なんだと首を傾げてる 私に聞く 深いため息をつく窓の外‥夕陽が…

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