大野靖之

22歳のひとり言 – 大野靖之

兄貴が家を出た時まだ僕は九つで
わざと強がってみせたりして 本当は淋しいくせに
言うまでもなく母さんは大粒の涙流し
見送りに立ったあの背中が 今でも焼きついてる

アルバムの中にそっとしまっておこう
五人で並んだ写真のようにまた仲良く暮らそう

いつも遠くにいるような父さんがとても大好きで
優しさに満ちた瞳の奥で 何を思ってるんだろう
優しさゆえに父さんは母さんのグチや文句も
だまってうなずき言い返さず けんかは見たことがない
僕を愛する以上に息子を愛する以上に
ママはパパのことパパはママのこと 愛し合ってほしいんだ

アルバムの中にそっとしまっておこう
二人が出逢った奇跡に今心込めてありがとう

小学六年の春 母さんが病にかかる
平気な顔して笑っていた 僕だけに見せた顔
中学に上がり僕の活躍を話す度に
どれだけの笑顔こぼしただろう 期待通りの僕に
ある日嘘ついた僕に傷跡見せてこう言った
「ママはもう死んでしまうのよ」と強く言い聞かせた

苦しかったろう 悲しかったろう
どんな風に受け止めたんだろう
暗い闇の中で一人 明日におびえていたのだろう
命ある限り誰もが生きていく
生きていることが奇跡に思えた十五の僕の心

僕が十六の時に兄貴は家に戻された
おやじにすべてを聞かされた時 自分を強く責めていた

アルバムの中にそっとしまっておこう
五人がそろってまた笑えたことを僕は忘れない

川の向こうでみんなが僕に笑って手を振る
「どこに行くの?」と聞いても答えない その時目が覚めた
涙が 涙が止まらない 僕を一人にしないで
愛する人を失うことに怯えた十七の夏

「大学ぐらい出なさい!」と母さんはいつも言うけど
僕はもう心に決めたんだ 大きな夢があるんだ
言うまでもなく母さんはしかめっ面どなり声で
どれだけため息をついただろう 期待外れの僕に

アルバムの中にそっとしまっておこう
「頑張りなさい」と僕の夢許した母さんの笑顔忘れない

僕の最後のステージに母さんはきっといたんだ
天国への列車を待たせて僕の歌をきいてた
次の朝何も言わずに母さんは星になったんだ
「いつでもみんなを見守ってる」と言ってるような気がした

アルバムの中にそっとしまっておこう
あなたにもらったこの十八年を今胸に刻もう

あの日母さんが植えた花は今年も咲きました
少し静かになったこの部屋にまた春が来ました

人は誰も年を取り命燃え尽きるもの
その時誰がそばにいるんだろう 手を握ってくれるんだろう
最初で最後の短き人生よ
眠りにつく時生まれてよかったと泣けるように生きよう

アルバムの中にそっとしまっておこう
五人で並んだ写真のようにまた仲良く暮らそう
かけがえのない僕の家族よ いつも幸せであれ

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