なかにし礼

  • 真夜中の自画像 – なかにし礼

    真夜中にひとり絵をかく自分の顔の絵をかくどことなく似てる悪魔になおせばさらに似てくる誰にも見せないこれが俺の顔さ恋人よお前も見たら石になるぞ真夜中にひとり絵をかく醜い顔の絵をかく諦めそこないの蛇口から落ちる水滴の音を聞きながら 風吹けば風がうるさい恋すりゃ恋がうるさい悲しみよ何故にお前は静かに眠ってくれない涙のかわりに俺の頬の上に一匹の小さな黒い蟻をかいたその蟻が動きはじめる顔中一面這いまわる涙の…

  • ハルピン一九四五年 – なかにし礼

    あの日から ハルピンは消えたあの日から 満州も消えた幾年(いくとせ) 時はうつれど忘れ得ぬ 幻のふるさとよ 私の死に場所は あの街だろう私が眠るのも あの地(つち)だろう青空に抱かれて キラキラと輝く白い街ハルピン 幼い夢のあと 街に流れる ロシアの匂い広場の花壇に 咲く花リラよ辻馬車が行くよ蹄(ひづめ)を鳴らしてキタイスカヤ街 モストワヤ街 プラタナスの葉 黄ばんできたらそれは厳しい 冬の訪れ息…

  • 老いぼれドラマー – なかにし礼

    君のリズムは古くさいよとバンド仲間は嘲笑うけど年齢(とし)はとってもジャズが生甲斐俺は場末の老いぼれドラマー黒いメガネにあご鬚つけてかぶるかつらはカーリーヘアー上はTシャツ下はGパンちょいと見た目はヤングなドラマー仕事がはねりゃ 家路を急ぐ電話ボックスにかくれて衣装の早替りメガネ かつら ヒゲをはずせばだぶついたお腹 うすくなった髪よれよれの背広 古い靴醜い中年 パパは老けてる若さがないと朝の食事…

  • 私の中の私 – なかにし礼

    あゝ なんて退屈なのあゝ とてもやりきれないねぇ これが結婚なの同じ顔 同じ声 つくづく厭(あ)きたわねぇ 私浮気したのそう ちょっと魔がさしたのそう 彼のお友達と土曜日の昼下り ホテルで落ちあって久方ぶりに激しく燃えて うん 愛されて幸せすぎて私はわれを うん 忘れたわちょっぴり心は痛むけどねぇ だけど不思議なのよそう 家に帰ってからあゝ 彼と目があってもニッコリと笑えたの ドキドキしなかった …

  • マッチ箱の火事 – なかにし礼

    俺が他の女と 一緒にいるところをお前に見られた あの時ほどおどろいた事はないね荒れた女同士の 喧嘩を俺は見てたベッドでタバコに 火をつけて煙をはきながら水をかけるわけにもいかないし裸で逃げるわけにもいかず火事なら燃えるとこまで 燃えちまえ俺はうそぶいた たかがマッチ箱の火事さマッチ箱の火事さマッチ箱の火事さ 私とこの女とどっちを愛してるのとお前にきかれた あの時ほど困ったことはないね俺は枕元の 昨…

  • 生まれなかった子供への手紙 – なかにし礼

    あの時お前が生まれてたら今頃十八 娘ざかり春の風に長い髪をなびかせながらぼくと腕を組んで街を歩けたろうにとりかえしのつかぬ過ち女の子と知って泣いたよ ままごと遊びの夫婦だった子供が出来ても産めなかった三日四日話しあって喧嘩までして川の土手を歩きながら心決めたが思いのほか傷が深くてひびが入り愛もこわれた お前は生まれて来なかったが心の痛みは生きつづける春が来ればちゃんと一つ年齢(とし)をとるのさ街を…

  • 時には娼婦のように – なかにし礼

    時には娼婦のように 淫らな女になりな真赤な口紅つけて 黒い靴下をはいて大きく脚をひろげて 片眼をつぶってみせな人さし指で手まねき 私を誘っておくれバカバカしい人生よりバカバカしいひとときが うれしい ム…ム…時には娼婦のように たっぷり汗を流しな愛する私のために 悲しむ私のために 時には娼婦のように 下品な女になりな素敵と叫んでおくれ 大きな声を出しなよ自分で乳房をつかみ 私に与えておくれまるで乳…

  • 帆のない小舟 – なかにし礼

    星のない暗い海に船出した 帆のない小舟あてもなく 波間に揺れて悲しみの 歌のまにまにゆらり ゆらゆら ゆらりゆらり ゆらゆら ゆらり ある時は嵐に泣いて友を呼ぶ 帆のない小舟傷つき さまよいつかれて悲しみの 歌のまにまにゆらり ゆらゆら ゆらりゆらり ゆらゆら ゆらり この世のほかの世界を夢にみる 帆のない小舟いくたびも 希み破れて悲しみの 歌のまにまにゆらり ゆらゆら ゆらりゆらり ゆらゆら ゆ…

  • 最後の晩餐 – なかにし礼

    最後のデイトは食事だけよ私は明日お嫁にゆくあなたを離れて愛することの淋しさ 日に日につのるからはるかな年上のあなたの すべてが珍らしかったありがとう 今日までの素晴らしいお祭りを ありがとうあなたと結婚できたらいいと毎晩夢見ていたけれど私があずけた魂をあなたは受け取ってくれなかった 最後の食事はしめりがちね私は明日お嫁にゆくあなたも瞳に涙をためて手を止め 言葉を探してるあなたの意気地のないことや …

  • 仮面舞踏会 – なかにし礼

    お前の顔は 見あきたしお前の声も 聞きあきたお前の躰 抱きあきたどうすりゃ愛が よみがえる そうだこうしようたまに二人で踊ろうかちゃんとお洒落して顔に仮面(マスク)をつけて仮面舞踏会の男と女のようにうん 名前はなんていうのうん 好きな人は今いるのたまらない腰の線踊りもイカすよ好きになりそな気がするよ好きになりそな気がするよ今夜ぼくと浮気をしてみませんか そうだこうしよう君をベッドへ連れてゆこうタン…

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