子供のころに暮らした日陰のような古い家
同級生に知られるのさえも恥ずかしかった
油が浮いてる水たまり花壇に零れる金木犀
手のひらの生きものたちを弔ってきた
叱られて閉じ籠る押入れ
お醤油が香って襖覗くと夕食が置いてあった
あの家はもうない
麗ら若き父さん母さんも甘く香ばしい匂いのなか
校舎を抜けて訪ねた一人暮らしの白い部屋
橙の窓際に飾られた一輪の花
映画はうわの空のまま気づけば終を迎えて
指もふれない生真面目さが好きだった
薄化粧は卒業式の夜
私から貴方の黒子にキスで星座を繋いだ
あの部屋はもうない
結末を知らされていない瓦礫の二人は夢をみていた
独りきりの舞台で初めて拍手を貰った日
照明に立ち昇ったあの歌を思いだして
あの場所はもうない
憧れたまばゆい世界は彩度を極めて遠のいてく
記憶はそっとそっと手直しを許して美しくなる
あの家は
あの部屋は
あの場所はもうない
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