吉澤嘉代子

  • 舞台 – 吉澤嘉代子

    彼方の水平線から遊火がらんらんと近くなってゆく意識の境界線から白波がさんさんと砂になってゆく 幕があがったなら満ち潮が割れて一息でのまれるわ海の真ん中で出会いましょう あなたとわたしたったひとつになるのよ狂おしい愛おしいきつく抱きあってあなたとわたしたったひとりになるのよ確かに見ていて深く突き刺すわ ひそやかな別れの嘘に優しいだけの花言葉を贈りたい 恐れを見せれば人を嗅ぎつけた魔物に食われるだろう…

  • たそかれ – 吉澤嘉代子

    鎮座する黄昏はみそらを持余し対岸で狂えどもとこしえの星砂 鞄に閉籠たはずの屍が静かに暴れだす 私の影に隠れているのは忘れかけていたあの日の声散らばる鍵を見つけてくれるなら壱度切りの和了りも捨てて今更に孤独が優しいよ狭間では誰もが口無でしょう 七宝を猫糞も未だ手持ち無沙汰大禍に御出ましよ貴賤の天邪鬼 嘲笑う通り雨に血濡れの花がちるぞえな 貴方の影に隠れているのは忘れようとしたあの日の嘘散らばる鍵を見…

  • みどりの月 – 吉澤嘉代子

    エメラルドグリーンの瞳に映った雨春の風の匂いがした 下を向いて蟻の行列を数えた連れだってきっと私もそんな感じ色や形や名前に誤魔化されてる気づかない方がまだマシ 後でおもうことはいつも同じ悔やみたくないのもいつも同じまるで悪い夢のようだ エメラルドグリーンの瞳に映った雨わたしの声に浮かびあがる世界宇宙の果て二人で握手しよう優しい涙を流す あなたはもう気づいているんでしょうこの世のままならない影をわた…

  • 魔法はまだ – 吉澤嘉代子

    ごめんも言わずに 脇目も振らずにあの娘は走る 紙吹雪乱れて飛ぶ白いラベル剥いだ VHS 再生不可能で湿った親指で スワイプするの窓に映る雪は贈り物 ヘッドフォンから漏れる音私達は 四角い箱の中で 鼻寄せ合い 踊ってる勇気を出して 誘ってみる 覚えたてのやり方で 歌うのよ囁いて わざとでも 太ももに 触りたかったの高鳴り続く 意味もわからず獣は吠える 肉を持て余して かわされる絶体絶命だ 大人になる…

  • ゆとり – 吉澤嘉代子

    別れの夢を見たよ 陽だまりのなか手を伸ばしたら目が覚めて泣いていた 離ればなれなんて嫌だよと私の中の子供の私が 授業中 居眠りしている間に過ぎた一晩の夢のような春 傷のない羽をよたつかせて 振りかえらずに飛び立ったあなたと渡った うつくしい夕焼けにさようなら 思いでがそっと 色褪せたとしてもキラキラ光って キラキラ光っているよ 食堂は綺麗になって 白い壁には話し声の影もない私の幸せを あなたの幸せ…

  • オートバイ – 吉澤嘉代子

    信号が変われば街はホログラムの夢黒く濡れた髪がシャボンを燻らす春古いオートバイの後ろでまたたく瞼轟くリズムに呼吸を忘れた 立ちどまる昨日の影を越えて 擦り抜ける闇のなかで身に纏った鎧が夜にちる擦り切れる音のなかで耳打ちして光の束になる“私を壊して” 国道を曲がればホームタウンへの出口緩いガードレール辿って見慣れた屋根微睡みに落ちた街を起こさないように薄明かりが差した背中に手を振った 歩きだした今日…

  • 涙の国 – 吉澤嘉代子

    飛行機が落ちて眠りつづけた星屑の砂漠にばらを隠したまま 微睡みの深くで君をみつけた姿をかえながら青ぢろく燃えてた すりきれたテープに載ったのろいを雪いで 光が差すたびに色が変わるここは不思議ね涙の国よ丸くなって落ちたら忘れかけていた痛みを寝ぼけた僕に思い出させて 硝子の白夜を歩きつづけたほんの小さな棘が足に刺さったまま 思っていたよりもずっと近くで真暗な永遠はくちをあけて待つよ 誰だって生きるため…

  • すずらん – 吉澤嘉代子

    柔らかい髪を風が奏でて清らかな肌はすずらんが香る しづかな瞳に熱を宿してさえ渡る針で願いを紡いだ羽衣に包まれる 涙が流れてゆくのを許してくれる人よ私の窓辺に優しいおひさまが届いた貴方こそいちばんの贈りもの ハンカチーフから零れる鈴がこの頬に触れてこの胸に触れて私を確かにする 心がここから遠く奪われてしまってもしおれた花壇はふたたび芽吹くときを知ってる また会える日までまだ生きていけるから 涙が流れ…

  • 抱きしめたいの – 吉澤嘉代子

    大人になって何度目だろう 声を殺して泣くのはまた同じような 出口に見せかけた 幻かな 鏡に映った 夢見る私を 私が いちばん 抱きしめたいの鏡に映った 夢見る私を 私が いちばん 抱きしめたいの 子供の頃の悪い夢を 忘れないでいることであのちいさな手を 繋いでいられると思っていたよ 鏡に映った 誰でもない私を 今日はまだ 心から愛せなくても 許せなくても 私がいちばん 抱きしめたいの私がいちばん …

  • 夢はアパート – 吉澤嘉代子

    生のお魚が食べられないあなたが旅立つ春の国際線空港で卒業式しよう いつかの夢ものがたりあなたらしかった実はわたしもちょっぴりだけ信じてる 夢はアパート 夢はアパート 皆でキャッキャ暮らせたら夢はアパート 夢はアパート 素敵な老後ね 出会ったころの集合写真が色褪せて見えた変わっていないつもりでも歳を取るんだね 赤信号でも並んで渡れば怖くない一緒に老いていけるなら悪くない 夢はアパート 夢はアパート …

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