天知茂
止り木 – 天知茂
ボトルの底にほんのわずか
酒をのこしてあのひと消えた
さよならだけが人生と
どこかできいたような台詞がくせで
酔えばもたれてくる肩が
恋しい止り木 影ひとつ
考えてみりゃ去年からの
けっこう長いつきあいだった
一度も好きと云えぬまゝ
お互い遠いとこで惚れあっていた
酔えばやっぱり演歌だと
歌った止り木 影ひとつ
いまごろ北國(きた)は冬のさなか
吹雪まじりの景色が浮かぶ
ひとあし早くこの街に
春だけやってきてもわたしは寒い
酔えば瞼で旅をする
女の止り木 影ひとつ
ボトルの底にほんのわずか
酒をのこしてあのひと消えた
さよならだけが人生と
どこかできいたような台詞がくせで
酔えばもたれてくる肩が
恋しい止り木 影ひとつ
考えてみりゃ去年からの
けっこう長いつきあいだった
一度も好きと云えぬまゝ
お互い遠いとこで惚れあっていた
酔えばやっぱり演歌だと
歌った止り木 影ひとつ
いまごろ北國(きた)は冬のさなか
吹雪まじりの景色が浮かぶ
ひとあし早くこの街に
春だけやってきてもわたしは寒い
酔えば瞼で旅をする
女の止り木 影ひとつ
バラは嘆きの花か俺によく似た花か傷を抱きながら強く生きてくためにトゲもいるさ咲いて散るのが花か散ってばかりが俺か星に身をまかせ一人枯れ野を歩くバカな奴さ俺が歩く
男の男のポケットは悲しい涙の捨て場所だ古びたベンチの木もれ陽だけが今の俺の友達だ捨てて行くなら手紙を書くなほほえみなんか残すなよ汚れた靴などそろえるな別れにこだ
雨の降る夜は 心もぬれるましてひとりじゃ なお淋し憎い仕打ちと うらんでみても戻っちゃこない あの人はああ 柳ヶ瀬の 夜に泣いている二度と逢えない 人なのになぜ
命短かし 恋せよ乙女紅き唇 あせぬ間に熱き血潮の 冷えぬ間に明日の月日は ないものを命短かし 恋せよ乙女いざ手をとりて かの舟にいざ燃ゆる頬を 君が頬にこゝには
俺の目を見て 離さない酒場の女の つぐ酒は酒は涙で できていた嘘もおせじも 言えないがその娘がそばに 居るだけで酒は情の 味がした飲んでばかりじゃ いけないわ少
ちえこが俺にくれたもの白い小さな貝がらひとつグラスの底に沈めて飲めば暗い酒場も波音ばかり夜の新宿降る雨が遠いあの海思い出させるちえこが消えたあの海をちえこが俺に
窓は夜露に濡れて都すでに遠のく北へ帰る旅人ひとり涙流れてやまず富も名誉も恋も遠きあこがれの日の淡きのぞみはかなき心恩愛我をさりぬわが身いるるにせまき国を去らんと
誰の世話にもならずにきたが少し近ごろ疲れたよ長雨つづくこんな夜は酔って甘えるひざがいゝあゝ しろいおまえのひざがいゝひとり暮しになれたとわらう声の調子が淋しそう
流れの雲にきいてみたおいら明日は 何処へ行くそよ吹く風に きいてみたおいら明日は 何処へ行く風がこたえた 雲にきけ雲がこたえた 風にきけどうせこの世の寂しさを知
「三月……春とは云っても、まだ肌寒い日だった」雨の中でさよならだけの別れだったが何故か気になる何故か気になる うしろ姿傘もさゝず背中をつたうしずくのせいか肩がふ
青い夜霧に 灯影が紅いどうせ俺らは ひとりもの夢の四馬路か ホンキュの街かああ 波の音にも 血が騒ぐ可愛いあの娘が 夜霧の中へ投げた涙の リラの花何も言わぬが
うまれた時が 悪いのかそれとも俺が 悪いのか何もしないで 生きてゆくならそれはたやすいことだけどこの世に生んだ お母さんあなたの愛に つつまれて何も知らずに 生
黒い霧 黒い雨ながいものには 巻かれろなんてとめても俺は 行かなきゃならぬただひとり 地獄の底俺か?俺は何もかも失くしちまった男だ失うものは もう命しか持ってな