kittone

  • 花束に栞 – kittone

    ずっと眺めていた写真の中窓辺に小さく咲いたそれは私がいないあの部屋でどんな散り方だったんだろう 今更何とも思ってないけど何か言いたげな顔が少しだけ可笑しくて私はちゃんとうまく笑えてたかな今となっては知る術もないけれど 何回だって季節は変わってしまうけどあの日があの日々が 今もこの胸にある最終章を残した小説を閉じるようにいつかの花束に栞をまだ挟んだままでいる 見慣れない街並み 目を閉じては浮かべる穏…

  • 火花 – kittone

    夕暮れの空に並んだぼやけた灯りが遠くへ人混みをゆっくりと誘っていつもより狭い歩幅の隣にある小さなその頬も染めた気がした もうあと少し 弾ませた吐息が急かしているようにそっと胸を駆け抜ける 高く見上げた鮮やかな光の雨が熱く心を燃やしているこの火花が綺麗だ、って溢れて風に漂う声がもう戻らない夏に咲いたただ心はそれを見てた 奏で合うように交わした言葉が響いて呼吸をするほどにこの胸をなぞって薄暗い夜道を照…

  • 最終回 – kittone

    一つ二つ重ねて幾度筆を折り三つ四つと数えて咲かすなら道化の華 嫌い 嫌い 嫌い 破り捨てたい 誰彼構わず痛い 辛い 寒い まだまだ昼過ぎまで寝ていたい 「こんなところが素敵です。」「どこに出しても恥ずかしくないです。」なんて この頭上を右往左往 激しく虫唾が走る これで最終回 未来なんてきっと無いようなもんじゃない?「右向け、右」 「待て」 飼い慣らされた無機的健康体これこそ大正解!みたいなもんだ…

  • 視えないふたり – kittone

    茫、と外を眺める横顔を照らす月明かり少し開いた窓からそよぐ夜風が前髪を撫ぜていたまるでこの広い世界でふたりきりのようにこの部屋にはここにしかない時間が流れている 触れた先から凍えてしまいそうな半透明な胸の内側を柔らかな視線が 声が 優しく溶かして 写真や鏡には映らない瞳の奥にだけ私がいるひとりでいたのなら気付けなかったよ言葉って、優しいんだね 遠回りの家路に並んで見上げた流れ星嬉しくても涙は出ると…

  • 長い夢 – kittone

    長い夜の隙間を揺れてただ夢を見ていたまるで春を告げる花のようにまたどこかで逢える気がしていた 閉じた目を照らす月明かり 心を一つ歌って そっと風に乗ってまだ白い空を渡った君を描いているいくつも季節を迎えてやっと辿り着くその行く先なら君が知ってる 薄い紙の上に並ぶその指先に宿っていたそれは夜に浮かぶ月のような美しさで横たわっている 記憶の至る場所で溢れたインクのように君が深く滲んで今も胸に息づくまだ…

  • 名前を呼んで – kittone

    一つ声を聞いた、それだけで季節が色づきはじめたような気がしてやがて咲く薄紅より先に私を染めてしまったの気づいていないでしょう 私が嵐なら 君はまるで稲妻だ照らして 心を貫いて そばにいて そばにいて 強く手をつないで君となら どこまでもきっと行けそう 行けそうこの夜を駆け出して 私をつかまえて君がつけた名前で呼んで 澄んだ瞳にその眼差しまばたき一つも見逃したくないほどにどんな景色も目に映らないきっ…

  • ある夏の記録 – kittone

    揺れる水面に溶けた薄月浅い眠りに差した波の音 途切れたいくつもの声が生まれて手繰り寄せてはまた消えて泳いだ手を影が染める 描き出した夜空に咲いた光の雨が閉じたこの目から溢れ落ちていく流るるこの涙を何度生まれ変わっても思い出して 浅い眠りを割いた耳鳴り酷く頭が痛む夏の夜に 途切れたいくつもの声を辿ってただ夢中で書き続けたもう二度と戻れないとしても 空になった心に花火の音が注いだ閉じたままの目が捉えた…

  • いつかの君へ – kittone

    窓際に置いた空のままの花瓶が役目を終えたような顔をして外を流れゆく何度目かの季節を見送った 何も言わずに手渡した花束も今考えても柄じゃないよな言葉一つに結べるほど些細なものでも簡単なものとも思いはしないけど きっとドラマみたいに気の利いた再会はないから今だってこの胸には君がいる映画みたいに美しい結末なんてないままこうやって足を止めているんだ 変わらない街のどこにいてもその面影を重ねてしまうばかりで…

  • 誰も知らない – kittone

    夜の隙間を抜け出した空窓を開ければ流れる浅い夏の匂いがする いつかの夜空を照らす光の雨や頬を染め抜く薄紅 散りゆく花弁拾い集めて一つも残さずに書いている薄い足跡を辿る 何度も吐き出して 吐き出して胸も痛いほどに指先で心の行方を探す 言葉よりも透明で美しいものが知りたくて描いた面影浮かぶあの空の青さは僕しか知らない 窓際に並べた笑顔はあの日のままで時間が途絶えたみたいだ想っていても伝える術を持たない…

  • 春ノ嵐 – kittone

    通りに咲く薄紅 風揺れる凛とした横顔不朽の名画に惹かれるように視線が他に行き場をなくした 吹き抜けて散らした花が一つ淡い香りを残してそっと頬を撫ぜる 透明な風に乗って 胸を駆け回る君にこの心も奪われそうで前触れなく吹き荒んで眩い光放つ其れは 春を待つ僕の元に巻き起こる 通りに舞う薄紅 水溜まり染め上げた花弁どれだけ考えていてもこの想いが僕を追い越すばかりだ 月に並べた 目蓋の裏側焦がす君熱が胸を叩…

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