水田達巳

泣かんといてくれ – 水田達巳

せまくて汚いボロボロの部屋
窓の外 電車が走ると ガタガタ揺れる
野良猫が勝手に あがりこんで
いつの間にか 飼い猫みたいな顔してる
お前に 短いスカートを はかせて
酔っ払いの相手させてたこと 悔やんでる
タタミについた 焦げ跡と壁の傷だけが
二人が過ごした あかしなのか
このままじゃ あかんのやと
どちらかがともなく そう思い始め
離れて行くことが 今の二人にとって
ええことなんやと 決めたのに
泣かんといてくれ もうええから

精一杯(せいいっぱい)のことはしてもらったから
泣かんといてくれ せつないから
今は優しさが 哀しいから
遊ぶお金を 何とかすれば
少しはましな くらしが 出来るのに
だらしない男やったさかいに
数えきれん 苦労をかけてきた
うちらはもう 二度と会えんのやろうね
少しかすれた声で 言うけど
上手いぐあいに 言われんかった
別れたくないと 想いが 言葉に出来ない
泣かんといてくれ もうええから

どうせ はずみで 暮らし始めたんやし
泣かんといてくれ せつないから
今は優しさが 哀しいから
泣かんといてくれ もうええから
しんどい暮らしはもう 終わりやから
泣かんといてくれ せつないから
忘れることなんて 出来ないから

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