長崎ワルツ – 服部浩子

夜霧の波止場 嘆きのボレロ誰がために 歌うや 愁いの麗人よ上海の 港のダンサー赤い靴 何故に悲しや遠い 故郷は 大連かそれとも リラの 花咲く街か嘆きのボレロ唇

泣いても泣いても　堰(せき)を切るなみだよどうして　あふれるのよわい女と　言わないで恋をしなけりゃ　わからないなみだは命の　しぼり水この世で逢うこと　許さない悲

砂をにぎれば　ぽろぽろとつかみきれない　儚さよ潮の匂いが　しみついた母の背中が　浮き沈み今も聞える　志摩の磯笛が…置いてゆけない　母一人ここで暮らすと　決めた夜

愛の 愛の迷いを たち切れと隣のホームで ベルが鳴る許してね 許して女ごころの わがままをひとり旅路を のりかえるあゝ 涙の 終列車降りる 降りるつもりの あの

おんなにうまれて しあわせかわたしにとっては ふしあわせできることなら この命放して男に 変りたい放して男に 変れたら愛するおんなを すてないわいまもこころの

そうよおんなは　この胸で蕾を大事に　あたためる花は咲き　花は散る春風吹いて　舞い上がり心の川に　降りつもれ桜筏(はないかだ)　 桜筏(はないかだ)流れて　流れて

雨に打たれて　寄り添いながら花も咲く日を　待ちわびる逢えて良かった　あなたに逢えて迷わずに　歩いてくふたり　一輪　明日花背のびしないで　この身の丈に似合うしあわ

女ですもの　こぼれた花を両手に包んで　また散らす惚れた数から　ふられた数をひいて私の　倖せいくつたったひとつの　人生だからねぇ　そうでしょ　男と女空の青さに　心

隠れ里…　緋色(べに)が揺れます　京友禅(ゆうぜん)の川面(みず)に運命(さだめ)が　浮き沈みゆらゆらと…　何処へ流れる　炎の川よこの命　欲しいと言えば愛を叶え

ひとりぼっちが 淋しくて男ごころに からみ酒のめないお酒と遊んでいても今夜は逢えない舞酔草(まよいそう)恋のしずくに 流されて想いは 夕立雨(わたしあめ)指で回

港の霧笛に 急かされながら無口に改札 くぐります昨日届いた あなたの手紙読んで何度も 泣きました手荷物ひとつで 船に乗る海峡は 海峡は あゝ夜明け前…こころの迷

雨が涙を　誘うよに女の胸を　濡らして行った忘れなくては　いけない人と思うそばから　また恋しくて…あなたと歩いた　あの日と同じ日暮れ駅裏　小雨町傘に隠れて　溜め息

岬がくれの　船の灯(ひ)よりも揺れてせつない　恋ごころ霧笛泣け泣け　女は辛い…酒にすがって　見送るけれど待てと言うのね　別れの波止場お酒飲むほど　未練が増えて乱

心に嘘を　つきながら生きてゆくのは　何のためあなたに甘えて　すがれない自分の強さが　いやなのよ酔ってからんで　泣きくずれ女ひとりの　乱れ酒一夜(ひとよ)の恋を　

女の胸には　海がある夢さえ溺れる　涙の海に憎さ恋しさ　打ち寄せるあなた…あなた私を　捨てるなら夜空に浮かぶ　三日月を刺してください　この胸にふたりの愛には　闇が

邪魔になったら　何処かに捨ててどうせお店の　わすれもの言って差しだし　差しかけて駅まで送った　その人が夢で手をふる　港町あなたに逢いたいの　わすれ傘…好きと言わ

あんな男と　言いながらあんな男が　好きなのよ心の傷に　咲く花はあなた一途の　未練の花よ激しく抱いて　抱いて揺さぶって散らしてほしい許したいから　帯を解き許さない

松は喜び　夫婦(めおと)の松は心ひとつに　春を待つ生きてゆく身が　悲しい時も苦労くの字を　分けあって笑顔　松葉の　ふたり連れ竹は長寿(ちょうじゅ)よ　そのしなや

寒の戻りに　身をふるわせて耐えた遅霜　向かい風出世花だよ　春空めでた色苦労こやしに　涙を糧に咲いた寿　祝い花花の名前は「よろこび」という金の枝ぶり　銀の株出世花

誰を呼ぶのか　ほたる火よ消すに消せない　恋慕(おもい)火かいく夜逢(よお)う瀬を　重ねてもどうせ貴方は　夢ほたる夜が明ければ　他人(ひと)の駕籠(かご)飛ぶに飛