川神あい

瞼の母 – 川神あい

軒下三寸 借り受けまして
申し上げます おっかさん
たった一言 忠太郎と
呼んでくだせえ 呼んでくだせえ
頼みやす

それじゃ どうあっても このあっしには見覚えがねえと
あ~うるさいね~ 何処の風来坊か知らないが さっきからやけに
芝居が上手いじゃないか
そりゃあたしゃ 番場の宿に忠太郎という子供は残しちゃ来たよ
でもまあ 可愛そうなことに 忠太郎は五つの時に病で死んだって
聞かされているんだ
死んだ子供が今頃になって、此処へ訪ねてくるような事があるもんかね
その忠太郎ってのが あっしでござんす 女将さん たった一言でいい
忠太郎と呼んでおくんなせえ
あ~ とんだ猿芝居は止しておくれよ あっ それとも何かい
お前さんこのあたしを ゆすりにでも来たのかい
あたしが貧乏だったら だ~れも尋ねてなんか来ないもんを
ちょいとばかり小銭がたまったと見たら やれ親戚だの 倅だのと
あ~うるさいこったよ
それにだ 旅の 仮にお前さんが忠太郎だとしてもだよ
そんな姿で尋ねてきて おっかさんと名乗られたところで 誰が喜んで
迎えるもんかね
母を尋ねて来るのなら なぜ 堅気の姿で尋ねてこないんだよ
それじゃ どうあっても あっしには 見覚えがねえとおっしゃるんですか
あ~そうだよ 早く帰っておくれ 帰っておくれよ
よしやがれお浜 さっきから黙って聞いてりゃ 何て面してやがる
外は冷てえみぞれが降ってら あかの他人のおめえなら お浜で十分だ
こんな板の間まっぴらごめんだ 畳の上で話をつけようじゃねえか
女将さん 今何とか言いなすったねえ
親子の名乗りがしたかったら 堅気の姿で尋ねて来いと 言いなすったが
笑わしちゃいけねえぜ
親にはぐれた小雀が ぐれたを叱るは 無理な話よ
愚痴じゃねえ 未練じゃねえんだ 女将さん 俺の話をよ~く聞きなせえ
尋ね尋ねた母親に 倅とも呼んでもらえぬような こんなやくざに
誰がしたんでえ

世間の噂が 気になるならば
こんなやくざを なぜ生んだ
つれのうござんす おっかさん
月も雲間で 月も雲間で
もらい泣き

女将さん さっきおいらの事を ゆすりと
言いなすったが 冗談言っちゃいけねえぜ
おいら ゆすりでもなけりゃ たかりでもねえぜ
見ておくんなせえ この百両
尋ね尋ねたおっかさん 無事な暮らしをしてりゃいいが
もし万が一 みじめな暮らしをしていたら
ちったあ 足しになりゃいいと思って
汗水流して貯めたきれいな金だ
決して博打で貯めた金じゃねえぜ
寂しくて 渡世に足を染めた
半とはれば丁と出て 丁とはれば半と出る
すっからかんになっちまった時は
何度この金に手をかけようと思ったことか
知らねえぜ
でもだめだ おっかさんに巡り合うまでは 指一本触れちゃならねえと
今日の今日まで温め温めて来た金だ
でもそれもこれもみんな 何の役にもたたなかったようだ
こんな薄情な人だと知ってたら おいら 尋ねて来るんじゃなかった
いつもこうやって 瞼を閉じりゃ 逢わねえ昔の優しいおっかさんの面影が
浮んでくるものを
わざわざ 骨折って来て つぶしちまった
女将さん くれぐれも お体には お気を付けなすって それじゃ それじゃ
ごめんなすって
おっかさん おっかさんただいま あ~おっかさん ねえおっかさん
今表に出て行った旅の人 目にいっぱい涙をためて出ていったけど
あの人 いつもおっかさんが 私に話しをしてくれてる 番場に置いてきた
忠太郎兄さんじゃないの
ねえ おっかさんどうなの 泣いてたんじゃわかんないわよ どうなのよ
やっぱり やっぱり あの人が忠太郎兄さんだったのね 何
あんなみそぼらしい 格好で訪ねて来たから
この水熊の暖簾とか 私なんかに気をつかって もしかして
追い返してしまったとでも言うの おっかさん
それじゃあ せっかく此処へ尋ねてきてくれた忠太郎兄さんがあまりにも
可哀そうよ おっかさん それでも母親なの
おこぜ 許しておくれ おっかさんが悪かった おっかさんが悪かったんだよ
つい 水熊の暖簾とお前ばっかりが可愛くて あの子を冷たく帰してしまった
今からでも間に合う 忠太郎を迎えに行く お前も一緒に来ておくれ
ちょいと 誰かいるかい 籠を三丁 籠を三丁 用意しておくれ 忠太郎~
にいさ~ん
あの声は おっかさんに 妹の声じゃねえか 何を言ってやんでえ
何が今さら忠太郎だ 何が倅でえ
俺にゃ おかあはいねえんでえ 俺のおっかさんは 俺の心の底にいるんだ
上と下との瞼閉じりゃ 逢わねえ昔の 優しい おっかさんの面影が
浮かんでくらあ
逢いたくなったら 逢いたくなったら おいら 瞼をつむるんだ

逢わなきゃよかった 泣かずにすんだ
これが浮き世と 言うものか
水熊横丁は 遠灯り
縞の合羽に 縞の合羽に
雪が散る

おっかさん

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