少女病

空導ノ果テ – 少女病

深窓から焦がれた 一片(ひとひら)の理想(ゆめ)は唯遠く
粉雪(ゆき)のように溶けては 悲しき歌声(アリオ)を奏で続けていた

病魔(やまい)はこの身体を 穏やかに死へと誘(いざな)って
心まで屠るだろう
叶わない夢物語(いつか)を祈りながら

まだ……抗ってみせる。

運命(さだめ)を超えて 切り裂く為に 気高き大剣(つるぎ)を纏いたい
何物にも折れない意思は 未来を護る為に
この血脈(ち)が繋ぐ 希望の灯火(ほのお) 決して絶やしはしない
全ての願望(ゆめ)を継いで 導く姫君(イヴリィ)
伸ばした双手(もろて)は夜空へと消えて行く 幻想の花を追って

「とある大国の姫君・イヴリィ。
彼女は生まれつき病弱で外を出歩くことを禁じられていた。
身体を治し、将来は両親と国政を支えたいと夢見ていた。
しかしある晩、国家の秩序転覆を企てる一派が
クーデターを起こし、それまでの平和は一瞬にして崩れ去った。
非力な姫君はただ無力で……。進化に促されるままに逃げるも、
病に侵された身体は思うように動いてくれない。
衛兵に支えられながら、痛む心臓を必死に堪えて走った。」

不穏な種子(たね)は芽吹き 緩やかに根を伸ばしていた
無力に嘆く少女 その両目(め)に映る凄惨な赤は

もう……洗い流せない。

憤怒(いかり)を薙いで 覚醒(めざめ)の為に
寂滅の大剣(つるぎ)を与えて
刻み付けた王(ちち)の言葉と 王妃(はは)の笑顔を胸に
過去も未来も 葬る劫火(ほのお) 決して忘れはしない
全ての宿願(ゆめ)を背負い、虚空に誓う
伸ばした双手(もろて)が血に塗(まみ)れ穢されても 魂は穢されないと

「姫君は己の非力を責め、無力を呪い、そして力を欲した。
絶望した姫君の前に、黒いカラスを連れた女が
現れ甘言を囁く。」

「そう、力が欲しいの?」

「光栄に思いなさい。その美しさを、気高さを……
メリクルベル様が認めてくださったわ。あなたは救われる」

「復讐がしたいのでしょう?果たしたいのでしょう?
安心なさい、すべてはメリクルベル様のお導きのままに……」

「そして少女は差し出された果実を手にした……」

「望みのまま、おいでなさい
貴女が求めた復讐(ちから)は此処に−−」

毒牙に堕ちて 生かされながら 幻想の大剣(つるぎ)を振るって
無数の死を積み重ねては 終わらない悪夢(ゆめ)を視(み)る
砂礫の夜空(そら)に響く咆哮
何(いず)れ過去も自己も喪い 無(ゼロ)を刻む終(つい)の姫君(イヴリィ)
精神(いのち)尽きるまで 永遠に繰り返す
空導の箱庭に 救済(しあわせ)を捜して

「ずっと私が救ってあげる。決して見捨てたりはしないわ。
ふふっ、美しいわよ。憎らしいほどに。
……ねぇ、あなたが斬り裂きたいのは、
見知らぬ敵?それとも、あなた自身?」

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