奥田美和子

はばたいて鳥は消える – 奥田美和子

ぼくの頭には穴がひとつ 冷たい風が吹き抜ける
ほんとうなんだ 信じてよ
引き裂かれ 突き刺され 切り取られ 押し潰され
磨り減らされ 打ち砕かれ
膝を握り締めて痛みに堪えろ 泣くために声を膨らますな
縋り付くために声を振り絞るな 声をのめ! 声をのめ! 声をのめ!
自由は孤独のなかにある 自由は孤独のなかにしかない
ぼくは自由を歌う ぼくは孤独を歌う
はばたいて鳥は消える 歌って声は消える
青空に吸い込まれて消える
いつかぼくの消息が 歌のかたちで途絶えるとしても
ぼくは歌う ぼくがぼくであるために
ぼくは歌う ぼくがきみに紛れないために

風が仕掛けた戦争 空は闘う意志を失くした
雲は降参した 海は嘆くばかり
ぼくは死に損ない 部屋のなかは恐怖に占領された
なにかが崩れる音がする
拳を握り締めて踏みとどまれ 逃げるためにいいわけを捜すな
救けを求めるために声を涸らすな 声をのめ! 声をのめ! 声をのめ!
雨のように絶望が降る 雨のように降りやむことはない
ぼくは雨を歌う ぼくは絶望を歌う
ひきがねを引いて銃声は消える 歌って声は消える
青空に吸い込まれて消える
時の彼方に消える

泣き明かした夜を込めて 息を殺した朝を込めて
夜ならば夜のように 朝ならば朝のように 歌え!
はばたいて鳥は消える 歌って声は消える
青空に吸い込まれて消える
いつかぼくの消息が 歌のかたちで途絶えるとしても
ぼくは歌う ぼくがぼくであるために
ぼくは歌う ぼくがきみに紛れないために

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