泉鏡花原作「天守物語」より 富姫 – 城山みつき
その昔、姫路城の天守、最上階に富姫という美しい魔ものが棲み、
恐れられていました。
そこへやってくる若き鷹匠、図書之助(ずしょのすけ)との物語
姫路天守の 五重には
下界の人の 穢(けが)れは要らぬ
私の可愛い 亀姫へ
殿の白鷹(しらたか) あげましょう
真白き 真白き 真白き羽に
導かれるは 図書之助(ずしょのすけ)
片割月も見えぬ夜に 浮かぶはひとり、人の影
「誰(たれ)…」「殿の仰せで、戻らぬ鷹を探しに参りました」
「ここは人間の来る処ではない。命が惜しゅうないのか」
「既に鷹を逃した罪で切腹を仰せつかった身。
仰せのまま、命をもさし出します」
清き心で話し、惹かれ合う二人
「お勇ましい、凛々しいお方。お名が聞きたい」
「姫川図書之助(ひめかわずしょのすけ)と申します」
「私を見たとなれば救われるのか?
記念(しるし)にこの武田家代々秘蔵する兜(かぶと)を持ち帰りなさい」
兜(かぶと)盗んだ 罪人(ざいにん)と
図書(ずしょ)様追われ かくまう天守
霊力みなぎる 獅子の目を
追手刀(かたな)で 傷つける
見えない 見えない 見えない貴方(あなた)
闇にさまよう 天守閣
獅子頭(がしら)の霊力で守られていたものたちは、
目が見えなくなりました。
「姫君、どこにおいでなさいます。私は目が見えません」
「図書(ずしょ)様、私も目が…見えなくなっては、
また追手が来ると助けられない。堪忍して下さいまし」
「くやみません!姫君、あなたのお手に掛けて下さい」
「ええ、そのかわり私も生きてはおりません。
ただ貴方(あなた)のお顔が見たい、ただ一目(ひとめ)。
千歳(ちとせ)百歳(ももとせ)にただ一度、たった一度の恋だのに」
名工桃六(めいこうとうろく) 現れて
獅子の目直し 二人を救う
貴方(あなた)の眼差(まなざ)し その奥に
月の光が 見えました
愛(いと)しい 愛(いと)しい 愛(いと)しい人よ
心寄せ合う 白鷺城(はくろじょう)