松前ひろ子
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波止場で汽笛が鳴く夜は – 松前ひろ子
波止場で汽笛が 鳴く夜は女心が しくしく痛むこの手を冷たく 振りほどき連絡船に 乗った人恋は引き潮 別れ波ひとりしんみり ひとりしんみり 港の酒場 幸せなんかは 続かない知っていながら 夢見た私いい事ばかりの 思い出を数える指が 震えますどこの港で 誰といる未練ほつれ毛 未練ほつれ毛 酔えないお酒 波止場で汽笛が 鳴く夜は沖の漁り火 チラチラ揺れる海は凪(なぎ)でも この胸は涙が溢(あふ)れ 時化…
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人生舫い舟 – 松前ひろ子
よしてください ごめんだなんて何を今さら ねえあなた右に左に 棹(さお)さして泥水浴びて 生きてきた漕(こ)いで行きましょう 縁(えにし)の川を浮き世 人生舫(もや)い舟 演歌みたいな 人生だけど人にわからぬ 味がある晴れ着一枚 買えなくて今では遠い 語り草離しませんよ 命の綱はふたり 人生舫(もや)い舟 夢をこぼして ふたりで拾う夢と寄り添い 生きて行く変わりばんこね 人の世は泣いてもみたり 笑…
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おんなの恋路 – 松前ひろ子
おんなが男に惚れるのは理屈じゃないのよ 心がきめる世間が望む 幸せよりもあんたが浮かべる 片えくぼそれがしあわせ 私にはすべて捨てても 悔いはない 苦労をかけると 言われたらこの胸たたいて 笑ってみせる夫婦(めおと)かなんて どうでもいいの小雨そぼ降る こんな夜は差しつ差されつ ふたりきり何があっても ついてゆく 桜の盛りは 短いがおんなの盛りは はてなく続く男冥利に 尽きると笑うあんたの言葉に …
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居酒屋 夢あかり – 松前ひろ子
暖簾を出すたび 空へと祈るあなた今夜も 見ていてくださいね苦労を重ね あなたとふたりやっと開いた お店です私ひとりで これからは笑顔でともす 恋あかり夢あかり 色気も愛想(あいそ)も ない店だけどあなた残した この味守ってる細腕だけど まごころ込めて作る手料理 並べますどうぞ皆さま ご贔屓(ひいき)に笑顔でともす 恋あかり夢あかり 暖簾をしまって ひと息つけば湯気の向こうに 面影浮かびます一日今日…
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流転川 – 松前ひろ子
いのちの渕より なお深い男と女の 流転川いまさら戻れと 言わないで小舟がなければ 胸までつかりおぼれながらも わたしは渡る 世間の掟に しばられて愛してしまった 不しあわせこころのままです どこまでも笑ってください わたしでなけりゃわかりゃしません あなたの良さが 憂き夜にふたりの 目じるしは銀紙細工を みるようなおぼろな月影 恋ひとつなさけを通して ここまで来たら越えてみせます 流転川 人気の新…
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待雪草 – 松前ひろ子
つらいときほど 笑ってみせる黙ってそばに いてくれる惚れた惚れたよ その笑顔待雪草の 花に似たおまえと おまえと生きて行く ろくでなしだと 悔やんでないかしあわせやれぬ この俺を不甲斐ないぜと また呑めば朝まで寝ずに 待っているおまえに おまえに詫びている 何もいらない 夫婦(めおと)だものとはにかむ頬(ほほ)の いじらしさ遠い雪解け 夢に見る待雪草の 花のよにふたりで ふたりで生きて行く 人気の…
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夫婦絶唱 – 松前ひろ子
俺がお前に 会った時ころし文句を 云ったかい云ったおぼえは ないけれど聞いたふりして ついて来たありがとう ありがとう お前俺は離さない 今度生まれて きた時もやはりあなたの そばがいいもしも会えなきゃ どうしよう子供みたいな 目ですがるありがとう ありがとう お前俺は離さない ひとりだったら 細い道ふたり合わせりゃ 強くなるいつか咲かそう つらくともそれが夫婦の 愛の花ありがとう ありがとう お…
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風雪ながれ旅 – 松前ひろ子
破れ単衣(ひとえ)に 三味線だけばよされよされと 雪が降る泣きの十六 短(みじか)い指に息を吹きかけ 越えてきたアイヤー アイヤー津軽(つがる) 八戸(はちのへ) 大湊(おおみなと) 三味が折れたら 両手を叩けバチが無ければ 櫛でひけ音の出るもの 何でも好きでかもめ啼く声 ききながらアイヤー アイヤー小樽(おたる) 函館(はこだて) 苫小牧(とまこまい) 鍋のコゲ飯 袂で隠し抜けてきたのか 親の目…
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帰港節 – 松前ひろ子
闘い終えた 男らが暗い波間を いま帰るめためたに 疲れても笑顔が こぼれるぜご苦労さんねと 迎えてくれるおふくろ港の 灯を見れば 漁場(りょうば)が 海の修羅場なら陸(おか)はいこいの 恋ねぐら待たせたぜ 元気かい想いが ほとばしる合羽を着たまま ごろねを決めた激しい季節 もうすぐ終わる 気まぐれ海が 相手なら稼ぎ少ない 年もある慰めて くれるだろうあの娘が 生き甲斐さ岬をまわれば やさしい胸だ花…
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女に生まれて – 松前ひろ子
女に生まれて 女で生きてやっと掴んだ 倖せよ世間は噂を するけれど離したくない この恋を貴方(あなた) 貴方ひとりを 信じて生きる 化粧をしてない おんなの素顔好きと云ったわ 抱きしめた取り柄は何(なん)にも ないけれど尽くしたいのよ 真実(まごころ)で貴方 貴方以外は 見えない私 あなたの苗字(みょうじ)に わたしの名前酒のしずくで 書いてみるふたりでおんなじ 夢を見て同じ夜明けを 迎えたい貴方…