奥山えいじ
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居待月 – 奥山えいじ
ちぎれた雲の すきまから蒼くこぼれる 月の影指をかざせば ひとすじの望(ゆめ)が身体を 熱くするまだですか まだですか……逢いたいあなた今宵の月は 今宵の月は 居待月 たわむれですか 約束はひと夜 逢瀬の しのび宿髪をほどいて 結いなおし時間(とき)が しんしん過ぎてゆく秘めやかに 秘めやかに……姿を変える今宵の月は 今宵の月は 居待月 竹の葉ゆらし…
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一途舟 – 奥山えいじ
おんなの舟は どこにゆくあなたという名の あなたという名の 海へゆく素肌の縁(えにし)を 重ねてもこころは遠い 遠いひと惚れた男の 奥底にしずむ夢見る 一途舟 あなたの心(むね)に そそぐ川わたしが流した わたしが流した なみだ川恋したよろこび 哀しみがもつれて渦を 渦を巻く惚れた男の 嘘さえも消えて泡沫(うたかた) 一途舟 おんなの舟に 櫂(かい)はない運命(さだめ)の流れは 運命(さだめ)の流…
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会津想々 – 奥山えいじ
山また山に 抱(いだ)かれた湖やさし 翡翠いろ只見 金山(かねやま)… 奥会津ふるさとはるか 想う夜は胸を警笛(きてき)が すり抜ける うすむらさきの カタクリがうつむきがちに 咲く春よ三島 柳津(やないづ)… 名残り雪幼き初恋(こい)の 面影がまぶたとじれば 見えかくれ 一本杉に 石地蔵おふくろさんが 子達(こら)を呼ぶ坂下(ばんげ) 喜多方… 里景色心の岸辺 たどりゆく瀬音なつかし 茜空 人気…
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心の海峡 – 奥山えいじ
風が噂を 落としていったおまえは今も 待ってると…止まり木すてた あの日から北の港町(みなと)は 遠すぎるたどり着けない 戻れない心の海峡 迷い鳥 もしも背中を 向けずにいたら比翼の鳥に なれたのか…まぶたの裏で ゆれている白い横顔 片えくぼ酒に未練が 浮かぶ夜は心の海峡 霧が舞う 龍飛岬(ざき)から 荒海渡りひよどりさえも 松前へ…翼に傷を もつ俺がめざす灯りは おまえだけ飛んでゆきたい ひとす…
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うまい酒 – 奥山えいじ
やけに心が 乾く夜は独り手酌の 酒がいい憂き世七阪 まだまだ半ばちょいと一息 縄のれん…二合徳利 ぐい呑みで一人で飲む酒 うまい酒 久しぶりだと 酌み交わす酒は明日の 力水酔えばこぼれる 本音と愚痴に肩をたたいて くれる奴…昔ばなしに 花が咲く友達(とも)と飲む酒 うまい酒 ほんの小さな 幸福(しあわせ)を泣いて笑って 積みあげた今日もおまえは ほんのり酔って差しつさされつ 夜が更ける…これでいい…
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女がひとり – 奥山えいじ
酔えば過去(むかし)が うずくのよ飲まなきゃ明日(あす)が 来ないのよ仙台 国分町(ぶんちょう) ネオンの杜(もり)には止まり木さがして 止まり木さがして…さすらう女 化粧落として 洗い髪なじみの湯宿 終(しま)い風呂銀山 ガス灯 もたれて携帯(スマホ)の消去(け)せない写真を 消去(け)せない写真を…見つめる女 指と指とを からめてもかりそめなのね 港町釜石 時雨れて 汽笛がないてるため息まじり…
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人生波止場 – 奥山えいじ
春の夜更けに 港を発(た)ったしどろ舟足 舵(かじ)無し小舟あれから何年 やんちゃな俺も揉(も)まれ打たれて どっこい生きて辿り着いたよ 夢咲く波止場 口を開けば 口唇寒い義理を立てれば 道理に迷う冷たい浮世に つい背を向けりゃ向けた背中に 世間の風がジンと滲(し)みたよ 男の波止場 恋のいろはにゃ 無縁な俺に咲いた一輪 愛(いと)しい花が無器用者だと あいつは云うが二人三脚 心の絆固く結んだ 人…
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只見線恋歌 – 奥山えいじ
会津の空は 淡紅(うすべに)ぼかし八重の桜に 天守も霞む失くした人の 思い出たどるひとりの旅です 只見線いいえ いいえ 一人じゃないのあなたは今も 胸の内(なか) あの日は川霧(きり)の 鉄橋ながめ今日は若葉の 峡谷渡るあなたの歓声(こえ)が 聞こえるみたい山吹ゆれてる 無人駅はらり はらり 花びらこぼれ涙がにじむ 奥会津 六十里越 トンネル抜けて空が明るく なったでしょうか外さぬ指輪 かざして見…
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美しい村 – 奥山えいじ
水車がガタゴト音をたて子供たちの声がはずむ朝日はゆっくり顔を出し夕日はのんびり山に隠れる そんな美しい村はないかどこかにそんな村はないか 仕事を終えた大人たちは子供を抱いて夕日を見送るお年寄は寄り添って昔語りに目を細める そんな美しい村はないかどこかにそんな村はないか 誰もが楽しい仕事をし疲れた顔の人はいない恋人たちは頬をよせあい静かな時が流れて行く そんな美しい村はないかどこかにそんな村はないか…
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北の哀歌(エレジー) – 奥山えいじ
身の丈ちかく 雪が降る故郷は 線路(みち)の果て九年(くねん)数えた 都会(まち)の暮らしに別れを告げるベルが鳴る後ろ髪引く 思い出ならば胸のすき間に埋めりゃいいさ軋(きし)む明日に 身をゆだね北へ北へ、北へ北へ…揺られる夜汽車 失くしたものは 青き夢やるせない 恋ひとつ涙浮かべた 白い横顔俺には出来(すぎ)た女(ひと)だった詫びて飲み干す カップの酒に浮かぶ面影…ほろ苦いよきつく唇 かみしめて北…