金子由香利

真夜中の居酒屋 – 金子由香利

昨夜(ゆうべ)の事なの、いつもの所で お客を引いていると
そう あんたも知ってる 角の古い居酒屋の前よ
いつもと変わらぬ アコルデオンの音にまじって
突然 キャーという悲鳴……
おや、まあ 鎧(よろい)戸が閉まったの……
男達が 言っていた あの噂は
サツにたれこんだ奴がいる
あのウワサは どうやら本当で
仕返しに来た 男達で
店は大騒ぎ……

ガシャン、ドシャン、バシャン、ドシン、
そりゃもうひどい音で
せっぱつまった声、ひっぱたく音 悲鳴がまじるの
グラスが割れ 血が流れて そりゃもうひどいはず
こわいけど みたいのに……
おや、まあ 鎧(よろい)戸が閉まってる……
しばらくは そんな風で 突然の沈黙……
シーンとした時間の中で ドシン それでおしまい
しばらくするとね 裏口から
死体をひきずった男達が
セーヌの方へと……

お店はまた 鎧(よろい)戸を開けて 平常営業
アコルデオンは鳴り出すし
みんなすました顔……
何も見えず 口惜しかったけど 私も平常営業
みんな 楽しそうな顔をして
おや、まあ 夢でも みたのかしら……

夢でも みたのかしら

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