結城佑莉
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B612 – 結城佑莉
雨に咲いて 風に枯れたあの花こそ 僕等を喩うだろう 嗚呼、くだらないぜ君が君を騙しても決して 僕は騙せやしないから 鮮やかなその記憶の大抵は少し毒があるのだ 半端に吹く風に欠伸する君はセピアの蛇が棲む 僕等の日々は星屑だった離れるほど鮮烈になった幾重も折り重なる雲の様に何かを隠している 知らないでいて君が願うなら この夜空は太陽も照らすこと雨に咲いて風邪を引いたあの花をきっと 僕等は忘れもしないだ…
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蛇 – 結城佑莉
雨音 正午 目を覚ました鼠這うような衣擦れ明かりひとつ消したってさ何にも見えやしないさ 僕らはみな一匹ずつ体に蛇を飼っているその色を 艶やかな鱗を 君が殺してよ 殺してよそれがいちばん気持ちがいい破いてよ 破いてよそれが結局手っ取りばやい 明る日 正午 目を覚ました鵺の鳴くような大往生で各々 手前のことばっかさ構っていればよかった なんかに酔ってでもいないと目が覚めず困っているその平手を 一番エグ…
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爪痕 – 結城佑莉
ひとつ、理由があるならふたつ、同じ形の爪痕使い古しの言葉で何か確かめあっていた酷く荒んだ廃墟をふたりただただ転がり回った夜虫は季節さえ知らず飛んでいた 知らなければよかったこと星はいつか死んでしまうその音を聴いたあなたは泣いてもいないくせに俯いたまま 星空を引っ掻いて破れた痕また変わってしまった僕達だあなたをいつまでも忘れぬように今、もうひとつと傷をつける あーあ 見つからないように伸びる四つ葉を…
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虎 – 結城佑莉
どうか目を塞いで明日になるまであなたと異なることがこんなに痛むとは知らなかったんだ 天上の北極星幽かに煌めいていずれ消えゆく言葉と露に濡れた真白な体を持て余したまま 手が届きそうな 四角い暁に短くただ一度鳴く 咆呼 今にこの街が斑らになる頃朝が束となり降り注ぐそうさ俺は馬鹿な獣になっちまったあなたは独りで泣くだろう 花をひとつ持って他は捨てていけ誰も踏み込めやしないモノトーンの場所であなたの全てを…
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春海月 – 結城佑莉
ふわり この瞬間を時間さえも抜け出してただ美しく揺蕩うだろうそして あの約束を思い出すのも忘れて海月みたいな雲みたいだな僕も、あなたも 水平線に連れて行って霞がかった 微睡みの中あなたのことを考えている 何か忘れてしまったようだ大事なような 他愛ないような初めからないような 低気圧が無数の願いを吸い上げては遠くに飛ばす抱き締めてもいずれどこかへ消えてゆくもの ふわり この瞬間を時間さえも抜け出して…
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スイートピー – 結城佑莉
たぶん何処かで出会っていたんだろうそのくらい嫌に腑に落ちる夏 グラスはとうに 水滴を帯びて誰よりも先に汗をかいている でもあなたも負けてない 夏になると焦って路傍に咲いたスイートピーまだ間に合うよって誇らしげ猫かぶって 化けて藪に消えないで ハニーせめて足跡は残していけ その手 掴んであなたに出会えてよかったと言いたいのに そっぽ向いている 世紀の大冒険 なんてクソ食らえ並なものが嫌に腑に落ちる夏…
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ライカ – 結城佑莉
思い出すのはいつも濁った笑顔ばかり強がりは強さだと言っていたな 颯爽と船に乗り込んだあなたは宇宙へと旅立ちました 電波塔の影に乗りあなたに繋いでみえた言葉の奥の奥の方に雑音が消えない本当だけを探していた誰も彼も知らずいたならばこんな星とはもうおさらばさ 水金地火木土天海冥ひとりぼっちのあなたを銀河の果てまで連れ回してみたい幽かに煌めく救難信号いちばん大切なことをさあ、言葉にしてみようぜ今度こそ 誰…
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ごくらくとんぼ – 結城佑莉
しばらく続いた雨が止んだ知らないうちに紫陽花がぜんぶ落ちたあたし少し悲しくなりましたがあなたと別々になる時もたぶんこんな感じなのかもしれないなそんなことをふと思いました 七月初旬 鈍色の雲路地を撫ぜる空洞な音たぶんこの風は青銅でできている 愛ひとつ解らないんだあの日から月は逆さまなんだだから仕方ないじゃないか 涙も流れないようににらめっこでもしていようぜひっつくほど近くであなたを睨めつけたい拘った…
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浮かぶように – 結城佑莉
巡り合い 相対したが運の尽き口を開けば綺麗事の君が言う雲に描いたみたいな 未来さえいつか本当に浮かぶように ひとつも間違っちゃいないなんかそんな気がしている大した理由を求めるには一生は短いだろう 地べたに寝転がった空が大半になった低気圧に降り分離した水泡に君が写る 右手には傘を左手に心臓を 巡り合い 相対したが運の尽き口を開けば綺麗事の君が言う雲に描いたみたいな 未来さえいつか本当に浮かぶように …
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いつか花になる – 結城佑莉
ひとつだけ 君にだけ伝えたいことがある ひとつだけ 君にだけ伝えたいことがあるそのために 僕は言葉を尽くすだろう間違いも 正解もいつか花になるのだろうだからいまあなたは美しいんだと 長すぎる影と河原を歩いたギリギリの太陽が指を差す方へ いつか総てこの街は跡形もなくガラクタへと変わるでしょうたとえ声にならなくていいんだ歌になってしまえそして僕らの終わりは錆びた花ひとつ その色が分かるまでその如雨露で…