岸田敏志
-
部屋 – 岸田敏志
いつもならこんなに優しいはずはない明日の朝起きたら あなたがいない気がして眠れない夜が続いています胸にしがみつく私の髪にあなたはポツンと「バカだなァ」って言う 今夜は街へなど出かけたくないけど買ってくれたドレス着てみたくなっただけなのそんなに優しくしないでおいてつくろう笑顔がこわれてしまうでも涙に気づいたらもう一度だけ 抱いて 黄昏た部屋にはあなたと私だけバラも いすも 時計も 全てが止まってしま…
-
酔待草 – 岸田敏志
そんなこともあったわねって笑いながらワインをもう一杯赤と白のあいだのロゼのものたりなさはいくじなしすぎた あの日のあなたと私 愛を確かめきれずに愛に踏みきれずに失くしてしまった 一番いい時代 もっと冷やして グラスもっと酔わせて ワイン失くしてしまった 一番いい時代 若すぎたと言い訳しても胸に居座る ひと雫の若さひとりひとり選んだ それぞれの幸せが滲んでかすれて 二人を無口にさせる いつも迷ってば…
-
比叡おろし – 岸田敏志
京都の町が 淋しくなる人も疎らな 比叡おろしの頃いつもは恋の街 木屋町もあなたと歩いた鴨川もいまはひっそり 風の中 山菜茶屋を通りぬけ女ひとりで比叡おろしの頃路ゆく大原女に目をふせる悲しい思い出は寂光院女の悲哀は今日もまた もうじき春ですね もうじき春ですね 嵯峨野の小路白く雪化粧恋を求めて比叡おろしの頃池のほとりの大覚寺竹をくぐれば直指庵たどる恋路もゆきどまり もうじき春ですね もうじき春ですね…
-
黄昏 – 岸田敏志
枯葉散る季節になって靴音さえも消えました何故でしょうか… 淋し過ぎて胸の震え止まらない コート無しの身体寄せて歩く二人は恋人なのに追いかけても 今あなたの心何処に 遊んでいるの いつも通りにあの角まで送ってくれますか?ふりむかないでお別れに 心が 心が 乱れます… 黄昏の 街を 行く一人ぽっちの長い影離れてても あなただけは陽ざしの中 歩いてほしい… あなたを もっと 知りたかった私を もっと 見…
-
あんたの純情 – 岸田敏志
だから私が言ってたじゃない恋人きどりはやめなよとあんたにとって優しい人でもかなわぬ恋と知ってるのならだって男は帰る部屋があり女は帰るに帰れない得意の料理とワインを並べて鳴らない電話にためいきひとつポツンとあんたの負けさあんたの負けさそんな男の胸で泣いたんだものあきらめなさいあきらめなさい女はきれいに後ろ姿を見送るだけの恋はオトナの片思いだけど何だかうらやましいねあんたの純情 だから私が言ってたじゃ…
-
蒼い旅 – 岸田敏志
寒空に消えてゆく群れた冬鳥おまえには わかるまいひとりの淋しさを生きたくて 生きてきたわけじゃないのに死ねなくて生きてきたただそれだけなのに 疲れ果てて傷ついた青春の証拠は目には見えない心の蒼あざ帰りつくあてのあるつらい旅なら歩けないこの足をひきずりもしように戻ることも許されず落ちてゆく時には海の蒼さに 染まってゆきたいたえ間なく寄せる波消える足跡死ねなくて生きてきたただそれだけなのに 人気の新着…
-
きみの朝 – 岸田敏志
横たわるきみの顔に 朝の光が射している過去の重さを洗おうとして たどりついた深い眠りよ 別れようとする魂と 出会おうとする魂とあゝ心より躯のほうが 確かめられるというのか モーニング モーニング きみの朝だよモーニング モーニング きみの朝だよ 急ぎ足ふととめて ふりかえれば夕焼けがこの先いくら生きて行くのか こんな暮らし 仮の姿と 生まれようとする魂と 老いぼれてゆく魂とあゝ人間のはしくれに 生…
-
放浪記 – 岸田敏志
風は微かに汐の香りが 人の足急がせる鳥よそこから ふるさとは見えるかああ 夢遠く 最果ての旅の宿往きかう人の優しさに 涙ホロホロ 放浪記ああ この道は ふるさとへ続く道 苦労かけた父と母に 会わせる顔も無く今も元気か? 年寄せてはないか…ああ 夢遠く 人恋し 旅の宿幸せ 笑顔 家族連れ 涙ホロホロ 放浪記ああ この道は ふるさとへ続く道 帰ろかな 帰れない この花 咲くまでは ああ 夢遥か 流…
-
はーばー・れいん – 岸田敏志
君には嘘もよくついたけれど愛するための嘘もあったよヨットのマストが風に揺られて心の軸をゆさぶるみたいに季節のせいさと言ってみたけれど寒さはきっとただの淋しさ道しるべすらも見失ってしまった二人は旅人 さよなら どちらかが泣き出し泣けない方が肩を抱くだろうさよなら 最後のくちづけに微笑む方がバスに乗るだろう ハーバーレイン・ハーバーレインそしてどちらかが雨ン中 出会いもかなり下手だったけれど別れはきっ…
-
愛した女へ – 岸田敏志
六月の花嫁を あの映画のように教会からさらって しまえばよかったよあなたが北へと 嫁いだ日に始まった後悔(リグレット) 季節を渡る鳥たち あなたの住む街へはるかな旅の途中で 羽根を休めるだろ会いたい想いが ひろがって切ないよ ひどく 愛した女へ空を仰ぐ ゆとりもない 今の僕に涙ぐむ程冷たく青い 風を届けてくれ 送り届けた僕の 背中に声かけて何か言おうとしては 儚く微笑んだあなたはあの時 さよならを…