しなの椰惠

素晴らしい世界 – しなの椰惠

昨夜、ニュースを見た
遠くの国で女の子が死んだんだって
悲しくてたまらないのに寝て起きてしまえば
その子の顔なんて、誰も覚えていない

どっかの公園でホームレスが死んだ
その横で家族がピクニックをしているよ
彼の帰りを待つ汚い黒猫が
こちらをじっと見つめている。

人気者のあの子が「しにたい」って呟いた
誰かに向けられたそのSOSは、誰にも届かないまま
増えてゆくイイネの数に
背中を押されてしまう。

中吊り広告の下品な見出しが、
私たちを嘲笑ってんだ。
抱えきれない情報の波が
ちっぽけな人間をゆっくり飲み込んでゆく

そんな事より
昨日から奥歯が痛むの。

ああ、素晴らしい世界
ああ、素晴らしい世界
おとぎ話みたいな滑稽な世界をみんな生きているのさ。

つり革を爪が白くなるまで握った
窓ガラスに写る私と目があって
「もう限界だね、疲れてしまったね」
唇を強く噛んだ。

誰かを妬む心がいつしか羽根をつけて
この世界を駆け巡ってゆく
抱えきれない情報の闇が、
ちっぽけな私を引き釣りこんでゆく。

そんな事より、前髪切りすぎて泣きそう。

ああ、素晴らしい世界
ああ、素晴らしい世界

おとぎ話みたいな滑稽な世界を
みんな生きているのさ。

ああ、素晴らしい世界
ああ、素晴らしい世界

おとぎ話みたいな滑稽な世界を
私は生きてゆくのさ。

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