チダタカシ
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水無月の声 – チダタカシ
地底湖を回遊する 僕らは魚のように目を閉じることなど 知らないまま一日中群青色の 夢を見ていた 大きな手で地上へと むりやり放り出され密度の濃い風に 鱗を剥がれた僕らは泳ぐことさえ 忘れてゆく 夜空から 降りて来る 小さな声を 確かに聞いたんだ今汚れた 鼓膜を 破った 懐かしい鼓動 そして降り続く 降り続く 降り続く 水無月の優しい雨は羊水 みたいに 僕らを 再び包んだ 密かな夜更けを 泳いでみ…
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虹のオモイデ – チダタカシ
胸の奥から 引っぱり出した虹のオモイデが 夜明けの空色を複雑にして困る 前触れもなく 現れた君となすすべもなく いざ混沌(カオス)の中へ 貼り付けた虹 びゅうと 風が飛ばしたたとえそれが君に 関係なくても 大事なモノ 都合のいいように いじくりすぎて 虹のオモイデが てのひらで汚れてく もう一度君と キヲクを作んなきゃあの頃のままの空は どこにもいないなら 唾つけた指 びゅうと ページ飛ばした物語…
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京祭り – チダタカシ
迷ひ込んだ 花小路(こうじ)に炎(も)ゆる山の端(は) 碧(あお)く浴衣(ゆかた)の君は 石畳(いしだたみ)に立ちのぼりゆく 陽炎(かげろう) 人と夢が逢ひ 儚(はかな)き泡となる ソーダ水の戀(こひ)君は簾(すだれ)越し 咲く夕顔を 一つ切り 髪に飾る 嗚呼 夢はまた夢 藍(あひ)色に染め夢はまさ夢へ 咲き乱れる 高嶺(たかね)の花まるで逃げ水 追へば消へゆく宿命(さだめ)と知りつ 心止まらない…
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キズナノキ – チダタカシ
僕らは出会った 出会うために渇ききった心の 大地で 僕は土を掘り 君は種を蒔きそして天を仰ぐ なんてちっぽけな 存在だ 肌寒い風 が僕らの 息吹いた 芽を枯らして 泣かせるけど涙は また次の種の 役に立つはずさ肩を寄せて 待とうよ キズナの 木になるまで 僕が鳥になり 彷徨ってもすぐに見つけられる その木だけは 他の木と較べ 形はどうとか何色をしているか なんてちっぽけな 問題だ 光と影 気まぐれ…
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アオの矛盾 – チダタカシ
その時 カーテンが揺れて 花瓶を倒したこぼれた水が 映した 歪む世界を 蒼く 沈黙の空 何も教えてくれなくていい矛盾や 嘘と並んで ただそばにあるだけでちっぽけな生命 捧げたくなる その時 雲の上で 崩れそうな闇に僕らは 気付かず 笑ってたんだ 碧く 静寂の空 泣き出したくなる高揚感自分が 何者なのか 何をするべきなのかそんなことは どうだっていい 蒼く 沈黙の空 何も教えてくれなくていい矛盾や …
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風町電車 – チダタカシ
夢の中 君が言った 「春だね…」って 僕は目覚めて何となく そわそわする 椅子も ニュースも 牛乳も 早過ぎた朝に ちょっと 孤独漂わせ 音を立てる 君のいない 不自然な時間と 昨夜(ゆうべ)買った コンビニのパンぼーっと開けた 口に放り込むだけの味気ない朝食 風の電車に乗り 金の夜明けのなか 君を迎えに行こう いますぐに アパートの ドアの向こう 朝焼けが 僕を急(せ)かした海沿いの 君の町へ …