歩 ~をりふしの唄~
山(やま)の波(は)が白(しら)んでいく。
差し込む薄く淡い柑子(こうじ)の光が、辺りを照らす。
やがて静かに包みこむ。
芯から冷えた空気が肺を満たす。
竜蟠虎踞(りょうばんこきょ)たる地勢(ちせい)は、
迎え入れるでもないが、
拒むでもない。
蹠(あしうら)から伝わってくるのは、
固くて、柔らかい、
冷たくて、温かい、
そして厳しくて、優しい、
自然の理(ことわり)。
この統治下では、数字は意味をなさない。
自分の体と経験、
何よりも衝動に従うのみだ。
ふと、頭をよぎることがある。
自分が、この時代、この星、この国、この場所に生まれたことに、
何か意味があるのだろうか、と。
いまだに明確な答えは出ていない。
ただ、たまに感じることがある。
「今、この瞬間のためなのかな?」と。
そんな瞬間に出会うために、
この時代、この星、この国、この場所で生きているのかもしれない。
渉猟(しょうりょう)、
蒐集(しゅうしゅう)した断想(だんそう)を、
弛(たゆ)みなく未来へと撚(よ)りつなごう。
螺旋(らせん)に繋がる記憶を、自分なりの場所に運んでいこう。。
きっとこの先も、そんな瞬間に出会えるはずだ。
たどってみれば、遥(はる)か。
振り返ってみれば、僅(わず)か。
時も道も。
眼下に広がる街並みを吸い込んだ後、
前を向きなおす。
歩みを進める。
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