美山純子
桃と林檎の物語 – 美山純子
桃を二つ 買って帰った
あなたと 一つずつ 食べようと思って
狭い部屋に 西日がさして
あなたは いなかった 夕暮れの手品みたいに
こんなはずじゃなかったわ
誰だって 明日なんか 見えないけれど
こんなはずじゃなかったわ
蜩の雨の降る中 私 途方に暮れた
前の女と いっしょにいると
ふわさが 聞こえるわ 秋風のお節介
あなたいつも 言ってたじゃない
男を だめにする 身勝手な悪い女と
人のことは言えないわ
窓の空 お月さまも 見えないから
人のことは言えないわ
火の消えた煙草くわえて 私 ため息ついた
林檎一つ 赤くさみしく
あなたの ことなんか 何もかも忘れた
女ひとり こんな暮らしも
いまどき 世間では めずらしい話じゃないわ
白い小雪ちらちらと
この冬は 久しぶりに 一人だから
白い小雪ちらちらと
妹を呼んでやろうと 私 手紙を書いた
長い 手紙を書いた